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【井の中の蛙達】11話のあらすじ
階段から落ちて骨折した渡かぐやの腕には、あろうことかいくつもの傷があった。果たしてそれはなぜなのか。彼女が抱える深い闇に水野先生はいよいよ踏み込む。
11話「渡かぐや(今回は知識を入れられませんでした(汗))」【毎週月曜17時投稿】
(トリックアート・撮影:筆者 | 作品について:「保健室で話す渡かぐや(登場人物)と水野先生(登場人物)」を紙から飛び出させてなんちゃってトリックアートにしました(*´∀`*))
遠藤先生だった。生徒は目を拭(ぬぐ)ってから、座り直し姿勢を正した。
「おう、渡か。」
生徒はそれに小さな声で「はい。」と答え、俯くように上半身ごと少し前に倒してゆっくりと会釈(えしゃく)する。
「遠藤先生、どうされましたか?」水野先生がはきはきと明るい声で質問する。
「ああ、放課後よろしいですかね、その、お話しを。」
「はい、もちろんです。」
「ありがとうございます。それだけ聞きたかったんです。」
「そうですか。」
昨日、放課後の職員室で2人が話しているのを私はまたしても見ていた。そのときの会話の一部を以下に記す。
「骨折は事故ではなく、渡が抱える何かしらの問題に起因するものだと?」
「もちろん事故かもしれません。と言いますか、現時点ではそれがもっともな主張でしょう。本人もそう言っているわけですからね。」
「ええ。」
「ただ、彼女の腕にいくつもの痣(あざ)や擦り傷があったという医師の報告も私は見逃せません。」
「はい。」
「いじめにせよ虐待にせよ、それから自傷行為にせよ、彼女が何か深刻な問題を抱えている可能性は極めて高いと私は考えています。」
「同感です。」水野先生の話しを確かな目つきで時々小さく頷きながら聞いていた遠藤先生が今度は力強く首を縦に振った。「ちょうど明日からいじめアンケートの回収が始まりますから、そこから手がかりを得られると良いのですがね。」
もしや、そのアンケートで何かがわかったのだろうか。
また2人きりになり、一瞬の静寂が保健室を包み込んだ。
「ごめんね。」水野先生は再び生徒と向き合う。「それで、渡さんが何か辛いことを抱えているなら先生にも少し分けてほしいんだ。放課後なら他に来る人は少ないし、なんなら授業時間ならもっとゆっくりと話せる。あとは電話でもいいし。渡さんの話、先生は聞きたい。どうかな?」
「誰にも言わないでもらえますか?」
「もちろん。ただ、場合によっては遠藤先生と相談させてもらうこともあるかもしれないんだ。いいかな?」
生徒は一瞬ではあったが明らかに不安そうに目を落としたが、それを先生は見逃さなかった。
「いや?」
「えっと、そういうわけではないんですけど...。」
「けど?」
「いえ、大丈夫です。」
「何かあるなら遠慮なんてしなくていいからね。」
「はい。でも、大丈夫です。」
先生は深く息を吸って状態を起こした。
「そう。そしてら、今日の放課後は空いてる?」
「空いてますけど、でもさっき遠藤先生が...。」
「ああ、それなら大丈夫だから安心して。」
「あ、はい。」
「じゃあ、今日の放課後にまたここでってことで大丈夫?」
「はい。ありがとうございます。」
「いえいえ。ほんとに、なんにも遠慮しなくていいんだからね。」
ちょうどそのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが壁のスピーカーから鳴り響いた。
「あ、じゃあ、私、もう行きます。」
「ちょっと待って。もし、もしね、授業に出るのも辛いようだったらここで休んでいくこともできるけどどうする?」
「え」
「遠藤先生には私から言っておくし。」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「わかった。じゃあまた放課後に。」
「はい。ありがとうございました。」
不安が消えたわけではないが、心には少しの安心が根を下ろしている。閉じたドアを先生はしばらく見つめていた。
・
下校する生徒の賑(にぎ)わいが聞こえなくなり窓からはやや肌寒い風が流れ込む。それに乗せられて細かないくつもの冷たい粒が水野先生の頬を濡らす。彼女は『雨かぁ』と思いながらそっと窓を閉めた。
先程(さきほど)遠藤先生に、話しは明日の放課後でもよいかとお願いしたところ、用事が用事なのでむしろ感謝された。
『もう、帰っちゃったかな』と少しの不安を抱えながら、ゆっくりと丸椅子に腰掛けたところでドアが開けられた。
「よく来てくれたね。ありがとう。」
「はい。」
荷物を下ろし先程と同じ位置に座った生徒と2人、また向き合う。
外では雨が強くなり大粒が窓硝子(まどがらす)にパラパラとぶつかり、その向こうから轟々(ごうごう)と風が猛威(もうい)を振るう音が聞こえる。暗くなった世界で、蛍光灯の白い光だけが彼女等を明るく照らし出している。
「渡さんのペースでいいからね。」
「はい。ありがとうございます。」
「じゃあ、お話し、いいかな?」
「はい。」
少しの沈黙が流れたが、やがて生徒は話し始めた。
「実は、その、クラスの何人かに嫌なことをよくされていて...。」
「うん。」
「正直、辛いです。」
「そうだったんだね。それは辛いね。」
「はい。」
「それはいつから?」
「2年生になったばかりのころに、なってすぐに始まりました。」
「そうかあ。どんなことをされたのか、言える範囲でいいから教えてくれないかな?」
「はい。...。えっと...、まずは無視から始まりました。そのうちクラス全員からもされるようになりました。」
「うん。」
「その次は机の上の物をわざと落とされたり、落書きされたり、ぶつかってこられたり、ものをこわされたり、きもとかくずとかしねとか...。」
生徒の声は濁(にご)りを含み始め平常心ではないのがありありと感じられたが、彼女は目の前の床をひたすらに見つめながら、言葉を吐き出すようにして口を動かし続ける。
「だれもみてないところでなぐられたり、いえにかえるとちゅうでうしろからおされてにもつをとられてそれをはしのうえからおとされたり、しゃしんをかってにとられたりぃ...」
人間の構造に私はあまり詳しくはないのだが、彼女は明らかに大量の酸素を必要としているようだ。頻りに高い音を立てながら一気に息を吸っては話してを繰り返すようになり、やがて話すだけでも見るに耐えないほど辛そうになった。水野先生は丸椅子から立ち上がり少女のとなりに腰を下ろし、その背中を優しく撫でる。
「うんうん。」
「もぉう、しょうじき...死にたぃ...。」
先生は何度も「辛いね」や「よく頑張ってるね」と小声で繰り返しながら、丸まった彼女の背中をひたすらに手で温め続けた。
続く...
↑違う角度から(^o^)
↑お分かりかもしれませんが、定規以外全て平面の絵です(*´ω`*)
11話のタイトルにもあります通り、今回は物語に知識を盛り込むことができませんでした...(;・∀・)皆さんにとってよりメリットのあるブログを目指して努力している途中ですので、温かい目で見守っていただければ幸いです。m(_ _)m
それでは読んでいただきありがとうございましたm(_ _)mまた次の月曜日に♪(^_^)/~