※第7章「保健室」はおよそ9分で読めます
最寄りの本棚へようこそ♪\(^o^)/
毎週1章ずつ、小説を書いています。これが一作品目です。なのでかなり読みづらいと思います。ですが、毎週僅(わず)かですが、自身の成長を感じています。ですから少しずつ、読みやすく面白くなっていくと思います。お時間が少しでも許すようでしたら、よければ読んでやってください。m(_ _)m
目次
第1章
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第2章
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第3章
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第4章
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第5章
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第6章
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「井の中の蛙達」第7章のあらすじ
学校の階段から突き落とされた、ゆずほ。そのことがきっかけとなって訪れた保健室。各教室ではすでに授業が始まり、それによってそこは静寂と安心感に包まれていた。ゆずほはそこで、一体何を語るのか...
「井の中の蛙達」第7章「保健室」
・1・
ずっと昔、まだ私が小学生の頃、自分がどこかから落ちる夢を何度も見た。悪夢とも言えないその夢は、妙(みょう)にリアルだった。
わけもわからずに私はとにかく、天を見つめ地に背中を向け、落下している。鳥肌が全身に広がるなか、ついに地面に衝突し、それと同時に目が覚める。そしてその瞬間、現実でベッドの上に横たわる自分の身体にも、落下したときと同じような衝撃(しょうげき)が走る。
世界が未だ闇に包まれている中、私は1人で、怖さとも言えない不思議な感覚に襲われたのを、今でも覚えている。
ジェットコースターが急降下するとき、ゾワッとしたあの独特な感覚になるのは私だけではないはずだ。全身を今、その感覚が支配している。
翼(つばさ)のない人間に、空中では為す術もない。衝突に向けて全身が強張(こわば)って、身体がせめてもの準備を始めたのを感じる。
宙に浮いている時間は長く感じていたのに、着地する瞬間は一瞬だ。うおっ、という身体の内の内から這(は)い出たようなうめき声を上げながら、私は両手から着地する。真っ先に、衝撃と驚(おどろ)きに襲われ、痛みはその後に続く。
それは掌(てのひら)の骨から始まり、続いて腕(うで)の関節が鈍(にぶ)く痛む。そして、顎(あご)と胸にも激痛(げきつう)が襲(おそ)う。背負っている荷物の重さもあって、かなり痛い。そして最後は膝(ひざ)。硬いものと硬いものがぶつかって痛いのは、想像に難(かた)くない。
踊り場で身体は静止した。ゔ~、と、うめきながら、身体(からだ)の前面に全体重とリュックの重みを感じる。痛みのあまり、すぐには動けない。
「小林!」
これまた聞き覚えのある声で、背後、と言っても私は今倒れているので、階段の上の方で誰かが叫んだ。この低音と高音とが混ざりあったような特徴的な声は、見なくてもわかる。委員長だ。
身体は動かせないけど頭は妙に冴(さ)えていて、委員長は小林って呼び捨てにするときもあるけど、小林さんって呼ぶときもあるんだよなあ~、とぼんやりと思いながら、階段を駆(か)け下りる音が近づいてくるのを聞いている。
「小林さん、起き上がれるかい?」
この場に委員長が居合わせてくれたことに妙に安心した私は、今一度「ゔ~」とうめく。
「とりあえず、荷物下ろすぞ。」
・2・
「打撲(だぼく)と捻挫(ねんざ)。」保健室の先生が顔を上げて言う。「軽傷だから、冷やして、しばらく安静にしていれば大丈夫。」と、優しく微笑む。「その小指の傷は、違うの?」
今朝、割れた硝子(がらす)を片付けるときに切った傷だ。絆創膏(ばんそうこう)を貼ってあるから、先生も、大したことではないのはわかっているけど一応聞いてみた、という具合だと思う。
「ああ、これは違います。ちょっと切っちゃって。」
「そう。」
保健室には委員長が連れてきてくれた。
昼休みはもうすでに終わっていて、各教室では授業が始まっている。だから、室内は私達の声と冷房の音、それから外から聞こえる蝉(せみ)の声がするだけだ。
私は今、ベッドの上で足と頭を高くした状態で横たわっている。なにやら、患部を心臓よりも高くしておく必要があるのだとか。
保健室にお世話になるのは、高校に入ってからは今回が初めて。だからこれまで、保健室の先生とは廊下ですれ違ったときに挨拶(あいさつ)をするくらいで、話したことはない。
その先生と初めて面と向かった私の感想は、安心感がある、だ。サラサラとしたショートヘアに、自然な微笑(ほほえ)みが似合っている。
実は委員長は、東條が私を押すところを見ていたらしい。
委員長は昼休みが終わって、例の1年生の女の子が1階にある自分の教室に戻って行った後、後半の図書室当番の片付けを手伝い、図書室を出た。教室に続く3階の廊下を歩きながら、前方には私の後ろ姿があったらしい。
その私は、途中で左に折れて階段を下りた。委員長もちょうどその階段の上を通り過ぎようとしたとき、東條達がすぐ横を通り抜けた。比較的静かな廊下には不似合いなアイツラの騒がしさに、委員長は半ば無意識に彼女等の階段を駆け下りる姿を目で追いかけた。そのとき、私が押されたというわけだ。
それを後ろから見ていた委員長いわく、やっぱりどう見ても故意的(こいてき)な仕業だったらしい。
だから、幸いなことに、私には味方がいる。それも、委員長というかなり心強い味方が。
そんなこともあって、というかそれによって勇気が湧いてきて、階段の途中で同じクラスの東條さんに背中を押されました、と私は保健室の先生に言った。
ついさっきまでは、先生に東條達の事を話す気なんて、さらさらなかった。でも、階段から落とされたことで、気持ちが変わった。今まで着々と溜まっていた何かが、一線を超えた。
「それにしても、階段で押されるなんて、穏やかじゃないね。」前髪の下のパッチリとした大きな目を心配そうにさせて、先生が言う。「その、東條さん達と小林さんはどういう関係なの?」
「えっと、多少、意地悪をされているといいますか...。」
イジメ、という単語は出したくなかった。その一言を言うだけで、物凄く大事(おおごと)になってしまうような気がしたから。
「意地悪かぁ。他にはどんなことをされたのか教えてくれないかな?」
「ああ、えっと、まあ、食べていたお弁当をひっくり返されたりとか...。あとは座っていた私を机とか椅子ごと突き飛ばされたりとか...。あとは...」
思い出すだけでも苦痛だけど、嫌な記憶は怒涛(どとう)のように溢れ出てきて、とどまることを知らない。
それほど大きな出来事ではないけど、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられるのは日常茶飯事だし、文房具を壊されたことも何度もあるし、廊下で足を引っ掛けられたり、あとはもう単純に殴られたときもあった。先生は真剣に耳を傾けてくれるから、そういうことも話す。
アイツラも初めは、周りに人がいるときはそんなことしなかったけど、最近はどんどん大胆になってきて他の生徒がいるところでも普通にやってくる。でも流石に、先生の前ではやらない。あいつらの、そういうずる賢さに、ちょっと汚いけど、反吐が出そう。
クラスの人は私がイジメられていることには確実に気づいている。でも、みんな揃(そろ)って見て見ぬ振り。もうそんな状況にもなれたから、別にいいんだけど。でも、前鼻くんだけは気にかけてくれているような気がする。前鼻くんは優しい人だから。
そういうことも全部話す。途中で涙が出てきて恥ずかしかったけど、もういいや。
私が一通り話し終わると、辺りに沈黙だ漂った。それから、先生と委員長の深いため息が流れる。
「そうかあ。」天井を見上げた先生が、顔を戻して続ける。「話してくれてありがとう。」「よく頑張ったね。」心配そうな先生の顔に、少しだけ微笑みが戻る。
それを聞いて更に涙が溢れ出す。私の顔はもう、ビチョビチョだ。
リュックの中にケチャップを入れられたことも話そうか迷ったけど、止めた。根拠もないのに人に罪を着せるのはよくない。冤罪(えんざい)はよくない。
「とりあえず、ここでゆっくりしていこうか?怪我もしていることだし。」そう言ってから、先生は委員長を見る。委員長はドアの近くの丸椅子に座っている。「柏原(かしわばら)君も、ありがとうね。もう大丈夫だから、受験生の君は教室に戻って。」
真剣な顔で床を見つめていた委員長は、驚いたようにハッと顔を上げて先生を見た。「あ、いえ、ご心配には及びません。もう少し、ここにいます。」
それを聞いた先生は、「うんん。」と、優しく首を振る。「小林さんはここでしばらく安静にして、必要とあれば早退もできる。柏原くんにはまた今度、お話しを聞かせてもらうと思う。だから今日は、もう大丈夫だよ。ありがとうね。」
ベットに横たわったまま、私も、「委員長、本当にありがとうございました。」と微笑む。身体の至る所が痛むし、今まで泣いていたわけだけど、ここは切り替えて笑顔を作る。
「承知しました。」一度私を見た委員長が、先生に向き直って言う。「そういうことでしたら、私はこれで失礼いたします。」椅子から立ち上がり、ドアの前で振り返る。「先生、小林さんをどうぞよろしくお願いします。」そして私を見る。「最後に一つ。小林さん、もしよかったら、明日も図書室に来ないか?」
「え?」
「今度は、私が教室まで確(しか)と見送る。」
「ありがたいですけど、それは大丈夫です。男子に教室まで見送られているところを見られたら、逆に馬鹿にされそうなので。」
「確かに、そうだな。悪い。」
「いえ、お気持ちは本当に嬉しです。」と言いながら、なんだか前もこんなようなことを委員長と話したな、とふと思う。「でも、図書室には明日も行きます。というか、これから昼休みはずっと図書室にいようと考えていたところだったんですよ。あそこは、静かですし、安全ですから。」
「ああ。では、せめて階段を下りるまでは見送ろう。」
この申し出もありがたいけど、どこか微妙。でも、折角(せっかく)の委員長の優しさを断固として拒否するのも、それはそれで申し訳ない。「じゃあ、お言葉に甘えて、よろしくお願いします。」
力強くうなずいた委員長が言う。「他にも私にできることがあれば、何なりと申し付けてくれたまえ。」
「では。」先生に軽く一礼したあと、委員長はドアを開けて出ていった。
これからどうなるんだろう。そんなことを不安に思いながらも、白い保健室の安心感に、私は微かな安らぎを覚えている。
つづく...。
※この物語はフィクションです。
続きはこちら↓(2020.8.18更新)
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※今週の投稿(8/8)はお休みさせてくださいっ(TдT)(2020.8.7更新)
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