ようこそ、最寄の本棚へ♪
今回は ★芸術 知識 雑談 です!
今回から、新たに自作小説にも挑戦していきます。まだ始めたばかりなので、駄作ではありますが、よかったら読んでいただけると嬉しいです♫(^o^)
初見さんへ(2020.9.3付け足し)
毎週1話ずつ実生活に役立つ知識を盛り込んだ小説を連載しています。僕にとってはこれが処女作なので、かなり未熟さが窺(うかが)えるのではないかと思います。しかしながら、少しずつでも成長して参ります所存です。皆様にはお気が向かれたときに読んでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。m(_ _)m
井の中の蛙達 第1章「変わる」 / 最寄然太
・1・
街が静まる深闇の中、満開に咲く華麗な桜は容赦なく降り注ぐ雨粒によって無残にも散る。そして、翌日には薄汚れたピンク色の絨毯となった。
美しいものは汚れるのが世の常。それは人間も同じだ。大きなランドセルを背負って歩くピカピカの1年生も、数年後にはどうなるかはわからない。良くも悪くも。
日が昇り、大勢の人間が桜を踏み潰しながら歩く。数日前まではその美しき花に幸福を求めていたというのに、まるで手のひらを返すように態度が違う。人間とはそういう生き物だ。今日の味方は明日の敵なのである。
・2・
引き戸をガラガラと開けて入る教室は、昨日の雨のせいで肌寒い。周りを見渡すと、忙しく荷物を机の中にしまっている奴(やつ)、友達と話している奴、怖い顔で机の上の紙にペンで何かを書いている奴など、それなりに騒がしい。もう、クラスの半分程は来ているみたいだ。
2年生としての生活にはまだ少し違和感がある。けれど中学生としての生活にはもう完璧に慣れた。それが良いことなのか悪いことなのかはわからないけれど、少しづつ自分の中で傲慢(ごうまん)や怠惰(たいだ)の部分が、多くを占めるようになってしまったことは薄々感じている。
入学当初は家でも授業の復習や予習をしていたけど、今は全然していない。宿題の提出遅れで先生に叱られて苦い思いをすることも増えているし、遅刻も同じ。そのことに自分でも気づいたから、最近は少し意識して行動するようにしてる。
だから今日はまだ15分にもなってない。タイムリミットが8時30分だから、まだ15分以上余裕がある。これは俺にしては上出来。
・3・
約2ヶ月前、1年生を終えた。先生も生徒も思いやりがあってなかなかいいクラスだったと思う。友達は初めの頃、同じ小学校の人が5人いるだけだったけど、最終的には結構できた。クラスの殆どは友達と呼んでいいと思う。
だから2年生に上がるときは、新しいクラスでも楽しくやっていけると思っていた。始業式が終わった後、1年5組から2年3組の教室に移動する廊下を、また同じ教室で過ごすことになった友達と笑い合いながら歩く。けれど俺は後々、そんな呑気な予想がことごとく外れた事を思い知ることになる。
荷物を机に置きながら冷たい椅子に腰を下ろし、今日の授業で使う教科書類を机に入れていると、九条が悠然(ゆうぜん)と教室に入って来た。九条は1年からの仲で、親友まではいかないけど学校で一番仲がいい。班も同じだから給食時間にはよく話すし、昼休みはよく、九条と草香と山鼻と津崎と倉科と松枝と横尾の7人でバスケとかサッカーをする。だから今の学校生活はそれなりに楽しい、けど、それだけじゃない。
・4・
学年が上がりクラス替えが行われてからから1ヶ月で、2年3組にはスクールカーストが出来上がった。暗黙の了解の中で生徒内の格差が分化され、頂点に立つものが学級を牛耳るのだ。
階級は単純に言えば上、中、下と分けられているが、複雑に言えば同じ階級の中でも上下関係が存在している。
外交的で活発な人種は「陽気なキャラクター」の略語の「陽キャ」と呼ばれ、学校生活においてはこの陽キャこそが崇(あが)めるべき存在であり、我も我も、と皆が目指す最終目標だ。
その逆、つまり最も唾棄(だき)すべき人種は、内向的で存在感が極めて薄く「陰気なキャラクター」を省略して「陰キャ」と呼ばれる。この陰キャに落ちてしまえばもはや希望は無いに等しい。
上位層が好き勝手にやり、中位層はその顔色を伺う。下位層はといえば、上位層が弄(もてあそ)ぶ奴隷(どれい)だ。上位層からの命令は絶対で、今は主に彼らの宿題をやらされている。
このようにほぼ上と下の関係であるから、中位層は傍観者(ぼうかんしゃ)と化して、構図としてはイジメのそれとよく似ている。
しかしそれをおかしいとは誰も思っていない。なぜなら、それがこの集団においての秩序(ちつじょ)となってしまったからだ。だから、皆それを疑おうとはしない。
だが、大人にはこの状態を目撃(もくげき)されてはいけないという危機感はあるようで、担任を始めとする大人にはその雰囲気すら決して感じさせない。
上位層は支配欲が満たされ心地が良いから、現状を維持(いじ)したい。個体としての力も人数でも劣っている下位層は、大人に助けを求めることはできない。この、学校という密室においては、物理的に逃げ出すことはできても、精神的、社会的には脱出口は無いのだ。
・5・
チャイムの余韻がまだ残っている中、朝のホームルームが始まった。
「片瀬、終わったか?」
日直がいつもの手順で進行した後、担任の三枝(さえぐさ)が言った。片瀬(かたせ)というのは上位層に所属するサッカー部の男子。
先生の質問は多分、数週間前に出した課題のこと。国語の授業の一環で、男女4~5人の組を作ってその中で、課題図書への考察を大きな紙にまとめる。もう他の班はすでに提出しているけど、片瀬が長を務める班だけが1周間も期限から遅れているらしい。
その片瀬が面倒くさそうに口を開く。
「あーそれなんですけどー、田中くんがやってくれるって言うんで、お言葉に甘えましたー。」
俺は耳を疑った。田中というのは俺の名字。
「そうなのか?田中。」
担任のその問いにはすぐに答えられなかった。少し前に目覚めたばかりの脳はまだ本調子じゃなくて、今まさに起こっている出来事に対しての思考がまだ追いついていない。身体がカーっと熱くなるのを感じる。
「どうなんだ?」
さっきよりも少し強く質問してくる。いや、まってくれ。そんな話しは聞いていない。意味不明でまるで話が見えてこない。
「おい、田中?」
今度は片瀬が、嘘を微塵にも感じさせないスラッとした態度で聞いてくる。
「え?」
かろうじて出たこの一言こそが今の俺の本音。訳がわからない。俺が片瀬達の宿題をやるだなんてどこから出てきたんだ。もしかして俺が忘れているのかもしれない。いや、そんなことを忘れるわけがない。
仮に、片瀬が「誰でもいいから話を合わせろ」と考えて適当にターゲットを決めたのだとしても、なぜ僕なんだ?たまたま?いや、他の誰かでもよかったじゃないか。どうして俺に目をつけた?そう思ったのと同時に、先週の記憶が脳裏を掠めた。
先週の水曜日の昼休み、教室で片瀬の班が机を囲んで集まっていた。トイレから帰ってきた俺はその内の1人の、西村さんから声をかけられた。ちなみに、片瀬班は5人全員が上位層だ。
西村さんは国語の課題でわからないところがあるから教えてほしいと言った。俺は、自分にできることがあるならと、あまり深くは考えずに気軽に応じた。実際、それは俺にできる簡単な問題で、すぐに教えてあげられた。
「ありがとな。田中。」
去り際に、はずんだ言い草で片瀬が言って来るもんだから、俺は少しいい気分になったのを覚えている。
周りの風景がスローモーションになり、自分の脳が高速で動いているのが分かる。そうか。あのときにターゲッティングされたのか。きっとそうだ。くそ。
「たーなーかー。」
三枝が焦らせてくる。
俺は勇気を出して、震える声で「僕はそんな話、知りません。」。そう言った。
「はあ?お前、やってやるって言ったじゃん!」
片瀬がなぜそんなに堂々としていられるのかわからない。もはや常軌を逸している。いつもはごまをすっているけど、今回ばかりは我慢ならない。
「俺はそんなこと言ってない。」
もはや声の出し方を忘れてしまい、何故かかなり怒ったような声色になってしまった。けれど、それがむしろ良かったのかもしれない。
「もし、その話が本当だったとしても、お前の班の宿題なんだから自分たちでやりなさい。来週まで待つから。」
三枝は穏やかな口調でその場をなだめた。僕の主張もしっかりと汲んでくれているのが結構嬉しかった。うちの担任は比較的「いい先生」の分類に入る人種だと思う。
片瀬は納得がいかないようだが、やがて諦めた顔で「はーい。」と吐き捨てた。
・6・
翌日、教室のドアを開けて同じ中位層の九条たちに挨拶をする。いや、挨拶というより「うっす」と言うべきだろう。男子特有のその「うっす」を毎朝するのが俺らの恒例だ。
しかし、今日に限っては返事が帰ってこない。聞こえていないのだろうか。彼等に見えるように手を上げて再度「うっす」。けれどこちらをチラッと向いただけで、返事はない。どうもおかしいぞ。
そう思いながら周りを見渡してみても、広がっているのはいつもの光景。集まって奇声を上げる女子数人。自席でもくもくと分厚い本のページを捲る陰キャ眼鏡。焦った様子でノートに何かを書き写している2人組の上位層。
友人の反応は少し気がかりだったけど、あまり気にせずに俺は自席についた。
・7・
国語の時間。いつもは、国語教師である担任の三枝が来るのだけど、今日は何やら出張があるとかで、本吉(もとよし)という名の違う国語教師がやってきた。身長は比較的低いけど顔の彫りが濃い上にガッチリとした体型だから、かなりの圧がある。
このクラスは初めてだからとまず軽く本吉が自己紹介をした後、今やっている「走れメロス」を1人1段落づつ、立って音読することになった。それが終われば三枝から預かったというプリントをひたすらにこなすだけでこの授業は終わるらしい。
俺は音読は得意ではない。なぜなら漢字が得意ではないから。難しい漢字が出てくれば、当たり前だけど読むことができない。いつもは、難しい漢字が含まれる段落が回ってこないことを願うか、事前に自分が読むことになるであろう段落を読んでおき、隣の席の小野寺さんに教えてもらう。あるいは、そもそも読む順番が回ってくる前にその作品が終わってくれることを願う。しかし、最後のようには大概ならない。何かしらは読むはめになる。面倒けど、仕方がない。
今回もその例外ではなかったが、いつもと違うのは、なんと最初が俺だということだ。不意打ちだった。これでは小野寺さんに事前に聞いておくことはできない。
考える時間も無く、教科書を持って椅子を後ろに押しながら起立した。こうなってしまったら仕方がない。俺は難解な漢字が現れないことを祈りつつ、恐る恐る読み始めた。
けれど駄目だった。早くも2文目にそいつはいた。「邪智暴虐」。俺の音読の通り道に大きな岩石のように佇み、行く手を阻むこいつが憎たらしい。俺は紙が焦げるほど睨んだ。
「誰か教えてやれー。」
黙り込んだ俺を見て本吉が言う。こういうことは珍しくはない。一回の音読で1人は必ずいる。けれどそれが俺自身になったのはこのクラスになって初めてのことだった。
こうなったら周りからの助け舟を待つに尽きる。こういうときはだいたい近くの分かる奴が教えてくれる。
けれどいくら待っても周囲から救済の手は伸びてこない。本吉の「誰か教えてやれー。」はもう3回にもなってしまった。
誰も教えてくれないことを訝しく思ったけど、やがて自分が安易だったことに気付いた。助けてほしいのならば自分から行動しなくてはならない。誰かが勝手に救ってくれるのをのうのうと待つだけだなんて、俺はなんと図々しいのだろう。
「小野寺さん、これなんて読むの?」
隣に小さく佇む彼女に、「どうか助けてくれ」と心の中では懇願していた。
けれど、小野寺さんはまるで聞こえていないかのように、こちらを見ることさえしなかった。おかしい。この静まり返った教室の中、聞こえないわけがない。
「小野寺さん?」
何か悪いことをしただろうかという不安に苛まれながらも、さっきよりも優しく丁寧に訪ねた。
明らかに迷惑そうな表情でこちらを見た彼女は「わからない。」と、氷のように冷たい声で言い放った。
一瞬、周囲の背景が暗くなり、彼女の嫌そうな顔だけが鮮明に浮ぶ。俺は特に酷いことをされたというわけではないのに、裏切られたような苛立ちと孤独を同時に感じた。
小野寺さんがわからないのなら、俺は一体誰に聞いたら良いというのだろう。彼女はこのクラスで1番の成績優秀者なのだ。
「これはな、じゃちぼうぎゃく、だ。書き込んどけ。」
打つ手がなくなった俺を見かねて、本吉が言った。
教室は相変わらず静かなままだ。今日はどうもおかしい。
・8・
昼休みはいつもの面子(めんつ)でバスケかサッカーをしようと思ったが、彼らには近寄りがたい雰囲気が漂っていた。意を決してこちらが近づこうと試みはしたけど、あちらが何故か遠のいていくので、結局自席について朝読書用に持参した小説を手に一定の頻度でページを捲ることにした。読書にはあまり興味はないから内容はほとんど入ってこない。とはいえ、ボッチの昼休みを何もせずに過ごすわけにもいかない。
この校舎は数年前に改装されたそうだ。そのせいなのかはわからないけど、廊下に面する教室の壁には大きな窓ガラスがあり、廊下から教室内の様子が見える仕様になっている。生徒の安全を確保したり、秩序を保つためだろうけど、「1人ボッチ」の略称「ボッチ」にとってはきつい。この惨めな姿をクラスメイトだけでなく他のクラスの人間にも見られなくてはいけない。「あいつひとりだぜ、かわいそー。」という声が今にも聞こえてきそうで怖い。
そう思いながらも、定期的にページを捲ることを忘れずに俺は考えることにした。いつもは窓ガラスの向こう側にいた俺がまさかこっち側になるとは、一体どうしたものだろう。
意外にも答えはすぐに見つかった。きっとこれは片瀬の仕業だ。いつもは上位層の顔色を伺っている俺が、今朝は珍しく自分の意思を貫いた。それが気に食わなかったのだと思う。
しまった。上位層の中でも特に片瀬に目をつけられると厄介なのだ。彼は上位層の中の上位層、つまりこの2-3では片瀬こそがカーストの頂点。
事の重大さに気付いた俺は途方に暮れた。とはいえ、今はボッチなのが何より辛くこの昼休みを乗り切ることで精一杯。
でも、ボッチなのはクラス内で俺だけではなかったので少し救われた。このクラスになってから、ボッチ地獄から未だ抜け出せていない奴が1人だけいる。
それは小林。下位層のあいつだけはずっとボッチ。他の下位層は下位層なりに集団を作って、スタコラと図書室かどこかに出ていくけど、小林だけは相変わらず1人。眼鏡に痩せ型、身長は小さめ、それにどこにでもいそうな名字が加われば、いかにもガリ勉や陰キャという言葉が相応しい。
・9・
昼休みの終わりを告げる鐘がなった。俺は安堵のあまりため息を漏らした。けれど、すぐにまだ重要なことが解決されていないことに気付き、恐怖でまたため息が出た。
皆がぞろぞろと教室に帰ってくる。その姿をぼんやりと眺めていた俺は面白い事実を発見した。帰ってくる順番が、早い方から下位層、中位層、上位層なのだ。でも、そんなことはどうでもいいか。俺はまたため息を漏らした。
次の授業の開始を告げる鐘がなる寸前に入ってきたのは片瀬ら5人。黒板から見て真ん中の列の後方にある俺の机。その前を片瀬たちが今まさに通り過ぎようとしている。
その顔を見て少し怖くなったその時、片瀬の手が机の上にある俺のペンケースに当たった。いや、当てた。
結構な衝撃だったから、それは宙に弾き出された後、ガチャガチャと音を立てて落下した。チャックが空いていたようで床にはペンやら定規やらコンパスやら、その他にも数々の文房具が転がっている。
俺はそれを見つめているのがせいぜいで、顔の向きすら変えられない。体中が細かく震えているのがわかる。
片瀬がわざとやったのは確実。その片瀬は今、どんな顔をしているのか。そして他の皆はどうしているのか。
プラスチックの残骸が転がる茶色い床に視線を固定されたまま、寒気が体中を駆け巡る。
何か良くないことが、もうすでに始まっている...。
つづく...
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(2020.7.16 追記)