無料で短い【おかしな小説~人生を良くするエビデンスを小説に】ep.2

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 8月29から始動しましたこの「おかしな小説」ですが今回から以下のように変更を加えて執筆していきます。

  1. 単独で「おかしな小説」の記事として投稿。
  2. 投稿日時を毎週水曜日の17時に。
  3. 物語の趣旨を「気持ち悪いユーモア」から→「面白さ(様々な意味で)」,「不気味」,「畏怖(いふ)」,「畏敬(いけい)」,「科学的知識」と変更し、これらを織り交ぜて誰でも楽しめて(少なくとも嫌な気持ちにならないで)、読むだけでメンタルに前向きな変化と共にエビデンス(科学的根拠)に基づいた人生を良くする知識を得られる、というような芸術的面白さを目指します。

今後ともよろしくお願いします。

  

「遥か上空、雲海に広がる夜の静寂」【毎週水曜17時投稿】

※画像はイメージです

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 気づけば僕は真っ暗闇の中で一人、すがるものもなくただふわふわと空間を漂っていた。宇宙飛行士が体験する無重力とはこういうことなのかと頷くこともできるが、重力を全く感じないのかと言えばそうでもない。だとすれば自分はどこにいるのか。そもそも自分という存在すら確かなものではない。思わず両の手を軽く前に突き出してそれに目を向けるが、そこには確かに物体として腕があり指がある。とはいえ全身を確認できないのでは実感はなかなか湧いてこない。

 

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 月明かりに青白く照らされた、足元から広がる絶えることのないもくもくとした雲海が、遥か上空を吹き抜ける涼しげな風に流されてもうもうとうねりを打っている。僕はそれに着地してからそっと腰を下ろした。霧(きり)となったいくつもの水の粒達がふわっと小さく舞い上がり、優しく身体を包んでから薄っすらと消えてた。僕は無性に居心地が良くなって、程なくして全身を預けた。そして上を見上げる。

 その瞬間、息が止まった。ようやくその空気の塊をごくりと飲み込んだとき、無意識に口が動いた。

「うわぁ、綺麗だ。」

 

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分厚い雲が降りた街の明かりは到底(とうてい)ここにまで届くはずがない。有り余るほどの闇を得た星々は各々が嬉々(きき)として輝きを放ち、無数に広がる粒の中で同じ光など1つも無いように思えた。

 首を捻(ひね)り視界を右斜上にずらせば、そこには夜に包まれた世界では最もな勢力を持つ月が煌々(こうこう)と円い光の輪を闇に投げていた。

 

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 僕は状態を起こして今一度目前に広がる世界を見渡した。これを畏敬(いけい)と言わんとせず何とせう。今読んでいる鈴木祐氏の「最高の体調」によれば畏敬の念を抱くことは人に様々な健康的メリットを与えてくれるそうだ。今がまさにそれであり、感服のあまり言葉がでない。

 

 じわじわと眠気が誘ってきたところで僕はふと疑問に思った。睡眠を促(うなが)すホルモンのメラトニンは光に弱いから僕は毎晩遮光(しゃこう)カーテンで街明かりの猛威(もうい)を凌(しの)いでいるのだが、この満月や星屑(ほしくず)の煌(きら)めきはどうなんだろうと。旧石器時代の生活は健康そのものだと本では読んだが、その時代に生きていた彼ら彼女たちやその体内に属するメラトニンにとって、夜のささやかな自然光はどんな存在であったのかは疑問だ。が、案外すぐに正解の有力候補が浮上した。家があるだろうと。そんな当たり前の答えに気づかなかったのかと自然と笑いがこみ上げてきた。

 笑顔になるのは良いことだが、それが一段落した頃に自分が一人きりだということに気がついて、地上にいる家族や仲間が恋しくなった。果たしてここはどこなのか。どうやったら戻れるのか。僕は空の上をぷかぷかと浮かぶこの雲に乗っていつまで夜をさまよい続けるのか。孤独は煙草(たばこ)よりも身体に害だとは読書家になってからは常識になっていたから、家族や友人などの大切な人々は文字通り大切にするようにしていた。だが今となってはどうしようない。強制的に外界から追放されてしまった。人力ではまるで歯が立たない自然のいや、宇宙の驚異(きょうい)に畏敬どころか畏怖(いふ)の念が心を支配した。

 

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 「これ、よかったら食べませんか?」

横を見ると一人の女性が前かがみになって右手を差し出していた。握られている袋には「大容量!クルミ」とプリントされていた。

クルミ...ですか?」

「嫌いですか?」

「いえ、いただきます。」

 「健康にいいですから。」と囁(ささや)きながら彼女は小さな手でいくつかのクルミを僕に手渡した後、肩まで掛かる長い髪を耳にかけて隣に腰を下ろした。例によって白い霧(きり)がふわっと小さく舞い上がる。

 

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左手を揺らして、そこに乗った数個のクルミを転がして遊ぶ。本に書いてあったマインドフルイーティングを実践してみようと思い立ったのだ。今この瞬間の行為に完全に集中する時間を設けることで、現代人の我々にとって様々なメリットがあるのだそうだ。マインドフルなら皿洗いでも洗濯物干しでも筋トレでも何でもいいクルミに鼻を近づけて香りを嗅ぐと微(かす)かではあるが香ばしさを感じた。目を瞑(つむ)りようやく口に入れはするが噛むのはまだ早い。舌の上で転がすとごつごつとした凹凸と仄(ほの)かに苦味が感じられた。そしてついにそれを噛み砕くと口全体に渋(しぶ)みや苦味、それから油分の濃厚さと共に優しい甘みが感じられた。

 しばらくそうしていると隣の彼女が声を発した。

「もしかして...」

 ところが、その瞬間前方百メートル程離れた雲の割れ目からただならぬ重低音が聞こえ、続いてその場所から眩(まばゆ)いほどの白い光が溢(あふ)れ出した。そして間もなく何かが突出した。

 

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「あれは何でしょう。」

 驚きと恐怖で僕の身体にはストレス反応の1種である闘争・逃走反応が迅速(じんそく)に起動された。

「大丈夫ですよ。」彼女は静かに言った。「ただの飛行機です。」

 

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 彼女の言う通りそれは巨大な飛行機で凄まじい速度でこちらに迫ってくる。僕の身体は闘争は放棄(ほうき)し逃走することを選んだ。急ぐままに危うく後ろに逃げそうになったがすぐに切り替えして横に飛び出そうとする。しかし足場は雲であり蹴り出そうにもまるで手応えがない。

「大丈夫ですから。」

その様子を見ていた彼女はくすくすと笑いながら確かな口調で言った。

 「大丈夫なものか!」と怒りさえ覚えたが、一瞬の迷いの末に僕はその言葉を信じてみることにした。彼女の隣にまた腰を下ろそうと身を屈める。

 その瞬間、目と鼻の先まで接近した旅客機のフロントガラス越しに帽子をかぶった二人が微笑みながら会釈(えしゃく)したのが見えた。続いて客席の窓がすぐ横に迫り、その向こうには数人の子供が笑い合いまた別の窓からは1人の紳士がうつらうつらしているのが目に止まった。それらの光景は一瞬の出来事であったはずだが、視覚はそれを鮮明に捉(とら)えていた。そして凄まじい轟音(ごうおん)と共に大きな翼(つばさ)が視界の全てを遮(さえぎ)り、最後に機体の尾びれが風を切って行った。

 夜の静寂(せいじゃく)が元の姿を取り戻す。

 巨大な人工物が僕に与えた畏怖(いふ)に困惑しながら僕はつぶやいた。「すごかったですねぇ...。」

 笑いながら彼女が答える。「ですねぇ。」

 一息つこうかと身体の力を抜いたところで、周りの景色が少しずつ明るくなっていることに気がついた。活発だった星々はその数を減らし、堂々たる月はその輝きをすでに薄めていた。

 

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「夜が明けますね。」

 

 

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 隣を見るとそこには誰もいなかった。隅々(すみずみ)まで見渡してみたがそこには真っ白な雲の大海原がどこまでも続いているだけだ。

 

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 遥(はる)か遠くの空が白み始めやがて、まだ生まれたばかりの太陽が姿を表した。それは雲海を黄金に照らし出し、やがてまるで溶かすようにぽつぽつといたる所の雲を沈(しず)めていった。日差しの猛威(もうい)は止むことを知らず、ついに残るは僕が乗るたった一群の雲だけになった。そして程なくして、それすらも日の暖かみに溶かされたのだった。

 

 まぶたをも突き抜ける眩い光が視界を埋め尽くしている。万が一間違って目を焼かれないように恐る恐る目を開ける。つい今まで見ていた不思議な幻想に思いを馳(は)せながら、「ふぅ。」と息を吐く。外からは鳥の鳴き声が僅(わず)かに聞こえる。

 

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 寝床から起き上がりカーテンを明けてから、僕を現実に帰せた光目覚まし時計の電源を切る。

 

intiinti.com

(↑公式サイトなのでどのサイトよりも安いそうです)

 

 そしていつものようにペットボトルの水を口に含んだところで、はっと気がついた。

「あれは、小松さんだったなぁ。」

 

 先週の木曜日、緑豊かで小川の流れる公園で生野菜だらけの昼食をとっていると、隣の隣のベンチで同期の小松さんも同じように箸(はし)を動かしているのが見えた。ちょうど同じようにして小松さんもこちらを向いたので僕は会釈(えしゃく)をした。すると彼女は、何かの袋を掲(かか)げて僕に合図を送ったが僕には意味がわからなかった。それを察(さっ)したのだろう。自分の荷物を抱えてこちらに小走りで来た彼女は前かがみで言った。

「これ、よかったら食べませんか?」

 

 ペットボトルのキャップを締(し)めながら、初めて自分の中に眠る恋心と向き合う。

 とはいえ、あれは所詮(しょせん)夢だ。夢の中で人を殺したからと言って、それを現実でもやってしまうかと言えばそうではないし、はたまたそうすることを自分が望んでいるのかと問えば答えはNOのはずだ。夢幻とは奇々怪々(ききかいかい)なものである。

 だからといってこの感情を蔑(ないがし)ろにするのは得策ではない。それを見つめ観察し、向き合い、受け入れた上で『さて、どうするか?』と考えるのが喜ばしい道筋だ

 「それにしても、絶景だったなぁ。」自然と笑みが溢れる。「いつか早朝の便に乗って北海道あたりに自然を堪能(たんのう)しに行ってもいいな。」

 

 

intiinti.com

(↑公式サイトなのでどのサイトよりも安いそうです)

 

 

画像の提供元

※番号は上からの枚数順↓

※提供元の前の単語は、どの画像かをわかりやすくするため

  1. 雲の間の月(https://pixabay.com/images/id-461907/
  2. 闇(Gerd AltmannによるPixabayからの画像を加工)
  3. 雲海(Johnson MartinによるPixabayからの画像を加工)
  4. 星空(Gerd AltmannによるPixabayからの画像)
  5. 月(Okan CaliskanによるPixabayからの画像)
  6. 一人(Gerd AltmannによるPixabayからの画像)
  7. 二人(Gerd AltmannによるPixabayからの画像を加工)
  8. クルミ_Alicja_によるPixabayからの画像を加工)
  9. 雲の割れ目から眩いほどの白い光(Dimitris VetsikasによるPixabayからの画像)
  10. 飛行機(Анастасия БелоусоваによるPixabayからの画像を加工)
  11. 薄い月(pen_ashによるPixabayからの画像を加工)
  12. 誰もいない(Free-PhotosによるPixabayからの画像を加工)
  13. 黄金の雲(Free-PhotosによるPixabayからの画像を加工)
  14. 現実に戻った僕(StockSnapによるPixabayからの画像を加工)

無料【小説とトリックアート~人生を良くするエビデンスを小説に】「井の中の蛙達」11話

※この記事の全容はおよそ7分で読めます

最寄の本棚へようこそ♪

初見さんはこちら↓ 

hibijuuzitu-syotenn.hatenablog.com

 

目次

 

インフォメーション

 ・本記事を含むブログの内容や投稿日に変更を加えました。詳しくはこちらから↓

hibijuuzitu-syotenn.hatenablog.com

 

井の中の蛙達】11話のあらすじ 

 階段から落ちて骨折した渡かぐやの腕には、あろうことかいくつもの傷があった。果たしてそれはなぜなのか。彼女が抱える深い闇に水野先生はいよいよ踏み込む。

 

11話「渡かぐや(今回は知識を入れられませんでした(汗))」【毎週月曜17時投稿】

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 (トリックアート・撮影:筆者 | 作品について:「保健室で話す渡かぐや(登場人物)と水野先生(登場人物)」を紙から飛び出させてなんちゃってトリックアートにしました(*´∀`*))

 

遠藤先生だった。生徒は目を拭(ぬぐ)ってから、座り直し姿勢を正した。  

 「おう、渡か。」

生徒はそれに小さな声で「はい。」と答え、俯くように上半身ごと少し前に倒してゆっくりと会釈(えしゃく)する。

 「遠藤先生、どうされましたか?」水野先生がはきはきと明るい声で質問する。

「ああ、放課後よろしいですかね、その、お話しを。」

「はい、もちろんです。」

「ありがとうございます。それだけ聞きたかったんです。」

「そうですか。」

  昨日、放課後の職員室で2人が話しているのを私はまたしても見ていた。そのときの会話の一部を以下に記す。

 

 「骨折は事故ではなく、渡が抱える何かしらの問題に起因するものだと?」

「もちろん事故かもしれません。と言いますか、現時点ではそれがもっともな主張でしょう。本人もそう言っているわけですからね。」

「ええ。」

「ただ、彼女の腕にいくつもの痣(あざ)や擦り傷があったという医師の報告も私は見逃せません。」

「はい。」

「いじめにせよ虐待にせよ、それから自傷行為にせよ、彼女が何か深刻な問題を抱えている可能性は極めて高いと私は考えています。」

「同感です。」水野先生の話しを確かな目つきで時々小さく頷きながら聞いていた遠藤先生が今度は力強く首を縦に振った。「ちょうど明日からいじめアンケートの回収が始まりますから、そこから手がかりを得られると良いのですがね。」

 

 もしや、そのアンケートで何かがわかったのだろうか。

 また2人きりになり、一瞬の静寂が保健室を包み込んだ。

 「ごめんね。」水野先生は再び生徒と向き合う。「それで、渡さんが何か辛いことを抱えているなら先生にも少し分けてほしいんだ。放課後なら他に来る人は少ないし、なんなら授業時間ならもっとゆっくりと話せる。あとは電話でもいいし。渡さんの話、先生は聞きたい。どうかな?」

「誰にも言わないでもらえますか?」

「もちろん。ただ、場合によっては遠藤先生と相談させてもらうこともあるかもしれないんだ。いいかな?」

 生徒は一瞬ではあったが明らかに不安そうに目を落としたが、それを先生は見逃さなかった。

「いや?」

「えっと、そういうわけではないんですけど...。」

「けど?」

「いえ、大丈夫です。」

「何かあるなら遠慮なんてしなくていいからね。」

「はい。でも、大丈夫です。」

 先生は深く息を吸って状態を起こした。

「そう。そしてら、今日の放課後は空いてる?」

「空いてますけど、でもさっき遠藤先生が...。」

「ああ、それなら大丈夫だから安心して。」

「あ、はい。」

「じゃあ、今日の放課後にまたここでってことで大丈夫?」

「はい。ありがとうございます。」

「いえいえ。ほんとに、なんにも遠慮しなくていいんだからね。」

 ちょうどそのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが壁のスピーカーから鳴り響いた。

「あ、じゃあ、私、もう行きます。」

「ちょっと待って。もし、もしね、授業に出るのも辛いようだったらここで休んでいくこともできるけどどうする?」

「え」

「遠藤先生には私から言っておくし。」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

「わかった。じゃあまた放課後に。」

「はい。ありがとうございました。」 

 不安が消えたわけではないが、心には少しの安心が根を下ろしている。閉じたドアを先生はしばらく見つめていた。

 

 下校する生徒の賑(にぎ)わいが聞こえなくなり窓からはやや肌寒い風が流れ込む。それに乗せられて細かないくつもの冷たい粒が水野先生の頬を濡らす。彼女は『雨かぁ』と思いながらそっと窓を閉めた。

 先程(さきほど)遠藤先生に、話しは明日の放課後でもよいかとお願いしたところ、用事が用事なのでむしろ感謝された。

 『もう、帰っちゃったかな』と少しの不安を抱えながら、ゆっくりと丸椅子に腰掛けたところでドアが開けられた。

「よく来てくれたね。ありがとう。」

「はい。」

  荷物を下ろし先程と同じ位置に座った生徒と2人、また向き合う。

 外では雨が強くなり大粒が窓硝子(まどがらす)にパラパラとぶつかり、その向こうから轟々(ごうごう)と風が猛威(もうい)を振るう音が聞こえる。暗くなった世界で、蛍光灯の白い光だけが彼女等を明るく照らし出している。

 「渡さんのペースでいいからね。」

「はい。ありがとうございます。」

「じゃあ、お話し、いいかな?」

「はい。」

 少しの沈黙が流れたが、やがて生徒は話し始めた。

「実は、その、クラスの何人かに嫌なことをよくされていて...。」

「うん。」

「正直、辛いです。」

「そうだったんだね。それは辛いね。」

「はい。」

「それはいつから?」

「2年生になったばかりのころに、なってすぐに始まりました。」

「そうかあ。どんなことをされたのか、言える範囲でいいから教えてくれないかな?」

「はい。...。えっと...、まずは無視から始まりました。そのうちクラス全員からもされるようになりました。」

「うん。」

「その次は机の上の物をわざと落とされたり、落書きされたり、ぶつかってこられたり、ものをこわされたり、きもとかくずとかしねとか...。」

 生徒の声は濁(にご)りを含み始め平常心ではないのがありありと感じられたが、彼女は目の前の床をひたすらに見つめながら、言葉を吐き出すようにして口を動かし続ける。

「だれもみてないところでなぐられたり、いえにかえるとちゅうでうしろからおされてにもつをとられてそれをはしのうえからおとされたり、しゃしんをかってにとられたりぃ...」

 人間の構造に私はあまり詳しくはないのだが、彼女は明らかに大量の酸素を必要としているようだ。頻りに高い音を立てながら一気に息を吸っては話してを繰り返すようになり、やがて話すだけでも見るに耐えないほど辛そうになった。水野先生は丸椅子から立ち上がり少女のとなりに腰を下ろし、その背中を優しく撫でる。

「うんうん。」

「もぉう、しょうじき...死にたぃ...。」

 先生は何度も「辛いね」や「よく頑張ってるね」と小声で繰り返しながら、丸まった彼女の背中をひたすらに手で温め続けた。

 

 続く...

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↑違う角度から(^o^)

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↑お分かりかもしれませんが、定規以外全て平面の絵です(*´ω`*)

 

 11話のタイトルにもあります通り、今回は物語に知識を盛り込むことができませんでした...(;・∀・)皆さんにとってよりメリットのあるブログを目指して努力している途中ですので、温かい目で見守っていただければ幸いです。m(_ _)m

 

 それでは読んでいただきありがとうございましたm(_ _)mまた次の月曜日に♪(^_^)/~

9/6無料で短い【一週間小説~人生を良くするエビデンスを小説に】1週

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今回から「雑談」は「一週間小説」と名前を変えて、単独で1記事として投稿していきます。一週間小説の内容は以下の通りです。

  • 筆者の1週間の幸福や苦悩などを小説化
  • 読むだけで、人生を良くするエビデンス(科学的根拠)に基づいた知識を得られ、畏敬(いけい)や畏怖(いふ)の念を抱くような芸術的面白さがあり、その他にも様々なメリットが得られる、そんな小説を目指します

今後とも、よろしくお願いします。\(^o^)/

 

 「旧友との謎のチャレンジ」【毎週土曜日17時投稿】

※物語にするにあたって少々の誇張はありますが、事実の道筋から道草程度に収まるように努めています。

※画像はイメージです

 月曜日、小学校からの旧友と4年間ぶりに再会した。1時間はかかろうかという長い道のりを2人で歩きながら、思い出話しや互いの近況話しに花を咲かせた。

 やがて焼き肉の60分食べ放題コースを共に貪(むさぼ)り食ったあと、再び片道1時間の帰路に就(つ)いた。しかしこれだけで終わりとはならない。我々は当初から偉大なる挑戦を胸に秘めてその日を迎えたからである。その挑戦とはつまり、『女子やカップルしかいないであろう黄色い雰囲気漂うパンケーキ屋の眩(まばゆ)いほどに彩り豊かなパンケーキを野郎二人でただひたすらに貪り食う』というものだ。これは想像以上に苦痛であるに違いなく、僕たちはそれにマゾヒスティックな快感を求めていたのだ。

 その地獄とも天国とも言える店を当てもなく探して街をブラブラと歩いたものの、予想に反してそんな店など一向に見当たらない。ひょっとすると心の中に潜む逃避願望がその視界に靄(もや)をかけているのかもしれないが、そんなことで揺(ゆ)らぐ挑戦ではない。

 根気よく神経を研ぎ澄ませながらすでに痛み始めている両足で地面を蹴り続けていると、やがて1件のタピオカ屋が目に止まった。当初の手はずとは少し違うものの、黄色い空気の中で野郎2人という疎外感(そがいかん)を味わえることには大差ない。「ここにしよう。」と言う友人と共に店先に置かれた立て看板を見つめる。

 そのときだった。すでに自分の注文を決めていた友人が、目の前に広がるカラフル達に圧倒(あっとう)されていた僕に言った。

「へぎそば食えば?」

「え」

よく目を凝らしてみると、確かに『へぎそば』という表記がある。そして隣にはまさしくねずみ色の麺が綺麗(きれい)にざるに並べられた写真が添(そ)えられているのだ。僕は一瞬の迷いの果に、「おしゃれなカフェで坊主頭(ぼうずあたま)がそばを啜(すす)るのも悪くないな」という境地に至(いた)った。

 そもそも「へぎそば」とはなんぞや。それはつまり、布海苔(ふのり)がつなぎに使われた新潟県発祥のそばである。

 こういうことは考える前に行動すべし。

「僕はへぎそばで。」

30代前半くらいの女性店員がそれに満面の笑みを返してくれるので僕はかなり救われた。進められるがあまり、「黒糖タピオカラテ」も注文してしまったのは財布にも健康にも痛手ではあったが、今日は状況が状況でありつべこべ言うよりも友との時間を楽しむことが最優先だ。チートデイとも言おうか。

 

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 ちなみにここで少し健康についてうんちくを傾けるならば、焼き肉屋で僕が食した牛や豚などの「赤い肉」と「白米」は望ましいものとは言えない。できれば「赤い肉」は「鶏肉」に変え白米などの精製された「白い炭水化物」は玄米やそばなどのできるだけ精製されていない「茶色い炭水化物」に変えるべきなのだ。これは最近、津川友介氏の「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」という本を読んで得た知識なのだが、これを知ったとき、僕は正直驚愕(きょうがく)した。しかしエビデンスに基づいた質の高い情報であるから興味深いものだ。とはいえ繰り返しになるが、今日はつべこべ言っている場合ではなく友人との冒険を満喫(まんきつ)することが最重要だ。

 

 「お2階でお待ち下さい。」

とても素敵な笑顔の店員の指示にしたがって、野郎(やろう)どもは一段一段を重い足取りで上った。『いざ尋常(じんじょう)に、勝負!』僕は心のなかで意気込んだ。

 ところが、階段を登り終えた僕のその意気込みは空振りに終わった。そこには僕ら以外誰もいなかったのである。これでは挑戦にならないではないか、そう思いかけたところで僕がへぎそばを注文したことを思い出した。内向型人間にとっては、坊主頭の身長160センチがおしゃれなカフェでへぎそばを啜るのもかなりのチャレンジなのだと。僕は再び兜(かぶと)の緒を締(し)めた。

 途中、年配と中年の女性の2人組と外国人女性2人組が入店してきたが、案外苦痛ではなかった。人間に備わっている3種のストレス反応のうちの「チャレンジ反応」が僕を助けてくれていたのだろう。

 

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ストレスに対する人の反応は本人の考え方に大きく左右される。『これは挑戦だ。』などとストレスに対して何らかの意義を見いだせれば、程なくしてチャレンジ反応が起動しDHEAなどのホルモンのおかげで、身体は最高のパフォーマンスを発揮しやすい状態になり、その後の身体への負担も残らず様々な点でむしろプラスに働く

 

 目前に大きな窓が広がる席についた我々は、その向こう側に見える電子掲示板が妙に気になった。どうやらそのお店は蜂蜜(はちみつ)入りのハニーレモネードなるものをサブスクリプションとして販売しているようなのだ。店の前では1人の若い女性が呼び込みをしていて、通りかかる人に手当り次第声をかけている。

 「あの人、絶対に美人なんだよなあ。」

 しばらくその光景を眺めていた友人が声をもらした。向かいの店とはいえこちらは2階にいるわけだから、サンバイザーをかぶった女性の顔までは見えないのだ。

「おいおい、あれはハニートラップだよ。気をつけたまえ。」

友人は僕の注意喚起(かんき)に頷(うなず)きこそしたものの、相変わらず目は彼女に釘付けだった。そして更にこう言う。

 「帰りにさ、あの人の顔見てから帰ろうぜ。」

「甘い誘惑(ゆうわく)で店内に促(うなが)された後、別室に連れて行かれごつい男どもに購入するまで監禁(かんきん)されるのがおちだぞ。」

「そのときはお前がたのむ。」

「はい?」

「俺は知らん顔で帰るから。」

「勘弁(かんべん)してくれ。」

互いの冗談に笑い合い、それが落ち着いた頃に彼に質問を投げかけてみた。

「いやぁしかし、美人は好きか?」

「当たり前だ。」

「うむうむ。」

 美人を見るとなぜ男の脳みそがぐつぐつと興奮(こうふん)しだすのかは定かではないが、進化論の観点から見ればいくつか候補(こうほ)は弾き出せるのではないかと僕は推測する。美人は、自身の生存または種の繁栄(はんえい)にとってなんらかのメリットを、男の生存本能に予感させるのだろう。

 おしゃれなカフェの疎外感(そがいかん)に包まれながらも、眼下に見える美人に我々の報酬系(ほうしゅうけい)は刺激され、脳内ではドーパミンが忙しく動き回っていた。しかしドーパミンは幸福を追い求めさせる物質であって幸福そのものは与えてくれない。野郎2人は虚(むな)しくも、カップの底で籠城(ろうじょう)する数粒のタピオカと格闘することしかできないのだった。

 

 そして、またの再会を約束し熱い「じゃあ。」を交わした後の帰り道で、煙草の害にも勝ると言われる孤独を癒やしてくれたその友人に向けて、暗くなり始めた空に感謝の念を僕は投げたのであった。

 

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 今回は楽しげなお話でしたが、もちろん僕の1週間は苦しいこともありました。そのようなことも今後は組み込めるように努力していきます。

 

 

画像提供元

※番号は上からの枚数順↓

※かっこの前の単語は、どの画像かをわかりやすくするため

  1. 散歩(https://pixabay.com/images/id-839789/
  2. 玄米とそば(https://pixabay.com/images/id-316532/https://pixabay.com/images/id-801660/を加工)
  3. ジャンプ(https://pixabay.com/images/id-1822503/
  4. 友(https://pixabay.com/images/id-1807524/