【すみません】今週の水曜日と来週の月曜日の記事をお休みさせてください(TдT)

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 言い訳ですが、近頃アルバイトを始める予定でその準備などで作業が間に合わず、

  • 今週水曜日(9/16今日)の【おかしな小説】
  • 来週月曜日(9/21)の【長編小説】

をお休みさせていただきます。今週の土曜日の【1週間小説】と来週の水曜日の【おかしな小説】は投稿するつもりなのでお楽しみにしていただけると幸いです。そして、それ以降の記事に関しては予定日に着実に公開していけるように、今後も努力して参ります。なにかと不安定なブログではありますが、これからもよろしくお願いします。

m(_ _)m

9/12無料で短い【1週間小説~人生を良くするエビデンスを小説に】2週

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※この記事はおよそ10分で読めます

筆者の1週間を小説化「神経過敏な人間の生き辛さと、その奥に佇む大きなメリット」【毎週土曜日17時投稿】

 心が穏やかではない。夜は照明を暗くしてメラトニンが放出されるタイミングを前倒しにして睡眠の質を上げる自然音を流して無駄なストレスを軽減し生活の効率を上げる。食事には精製糖がふんだんに使われた甘いお菓子や加工肉はできるだけ避け、野菜やフルーツ、ナッツ、オリーブオイル、それから魚と鶏肉を増やして、精製度が低く自然の状態に近い茶色い炭水化物が我が家にないから白米を最低限の量で摂取(せっしゅ)する。今までは野菜を切ったり皿洗いや洗濯物を干しながらオーディオブックを聞いていたけど、それは複数のことを同時にやるマルチタスクになってしまっているから、これからはシングルタスクで1つのことに集中してさっさと終わらせた方がいいかも。いや、もっとこうした方がいいか?それともしないほうがいいか?健康のためには?生産性を上げるためには何が最善なのだ?

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 元々、神経質や完璧主義的な気質がある僕の今週は『神経過敏(しんけいかびん)な一週間』だと我ながら思う。大きなことから細かいことまで様々なことが気になってしまうのだ。

 最近は鈴木祐氏の「最高の体調」という本を読み、歴史の中で環境に対応して進化してきた人間の脳や身体が、長い人類史から見ればほんの少し前から始まった現代の都市生活にまだ対応できずに、様々なミスマッチが生じてしまっていることを知り、それへの対策を学んだ。

 まだ読んでいる最中の津川友介氏の「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」では、テレビや巷(ちまた)で流れる謝った情報ではなくエビデンスのある有意義な知識を得て、少しずつ食生活を変えていこうという意識が強化された。

 そういう意味では最近は大きな学びがあったわけだが、同時に食や健康について過度な心配を抱いてしまったのも事実である。(本来なら得た知識を少しずつ実践していけばよいのだが、僕の場合はそれができずについつい意気込んで様々なことを一気に変えようとしてしまった。しかし、だからと言ってこの本を読まない方がよかったとは思わない。むしろ皆さんにも是非の一読をおすすめしたいところである。なぜなら、僕は急激に頑張りすぎたせいで一時的に気疲れしてしまったものの、読む前と後の生活が大きく好転したことに変わりはないからである。f:id:nenta-moyori:20200912153848j:plain

 そして数日後、それに消費されて弱ってしまった僕の意思力は様々な誘惑(ゆうわく)に一気に襲(おそ)われることとなる。

 

 甘いお菓子や加工肉などの不健康なものを貪(むさぼ)り食いたい衝動、それをしながら半沢直樹などとにかくテレビ番組を見たいという欲求、友人のジョニーにもしつこくちょっかいをかけられ、僕の理性の壁は崩壊寸前(ほうかいすんぜん)だった。幾度(いくど)も経験していることだからわかるが、何でもいいからとにかく憂(う)さ晴らしをして現実から逃避したかったのだ。

 脳内に滞在するドーパミン君の活発化に伴(ともな)報酬系がむくむくと目を覚まし、「それをしなければお前、死ぬぞ?」と騒(さわ)ぎ立てる。血糖値はお菓子やら加工肉やらのために下降を始め、「今、食べなさい」と人差し指を突きつけてくる

 しかし、脳内には前頭前皮質という味方もいる。そして今までで吸収した多くの心理学の知識がある。僕らは一斉に立ち上がり、向こう側から一直線にぞろぞろと行進してくる敵と戦うことを誓(ちか)い合った。

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「僕たちには「人々(自分を含む)の居場所を作る守る」という大切な価値観があるんだ。それに、支え合う仲間がいる。彼らを裏切るわけにはいかない。」

 まず手始めにGoogleカレンダーで2025年のちょうど今日の自分に向けてメッセージと今の自分の姿を写真に収めて送り、これによって自己連続性が高まり現在と未来の自分は密接に一本の線で繋がっていることを思い出し、将来の僕への思いやりを強化した。

 次にLINEを開き小学校からの信頼できる友人に向けて「きついー」と弱音だけを吐いて立ち去り、続いてツイッターを開いた。ツイッターには少なからず「お互い、頑張ろうな。」と言い合える仲間がいるから、そこで「一時的な快楽を追い求める欲望なんぞに負けてたまるか」と公言してしまえば、戦っているのは1人じゃないという感覚が生まれ、更にその仲間の信頼を裏切りたくないという心理が働き、レジリエンス(逆境の最中でも柔軟に進んでいく力)と意思力が高まった。そのツイートがこれである。

 その他にも色々な手を打ち結果的には欲求に屈(くっ)することなく、またいつもの流れに乗ることができた。

 

 しかし、話はここで終わらない。知識や他者の手を借りながら内なる脅威(きょうい)を跳ね返した僕の神経質度合いは変わることはなかったのである。相変わらず、細かなことが気になってしまうのだ。

 ここ数日、不安で仕方ない物の正体はコンピューターウイルスだ。もうお分かりかもしれないが僕はPC(パソコン、パーソナルコンピューター)で最寄の本棚を執筆している。例えばこのPCが何かしらのウイルスに感染してしまえば、僕はブログを執筆したり皆さんと関わることが難しくなる他、大したものではないが(笑)個人的なデータが危険に晒(さら)されてしまう可能性もある。

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 不安は妄想を呼びその妄想はさらなる不安を呼ぶ。webカメラが乗っ取られて、僕の生活を覗き見されたら(これも大したものではないが(笑))?パスワードを盗まれたら?遠隔操作で高額の商品を購入させられたら?ここまで来るともはや不安障害の域(いき)である。

 しかし、僕は思い出したのだ。

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我々人間は誰しもが常日頃から多種多様な脅威(きょうい)に晒(さら)されながら生きている。例えば、交通事故である。車に乗れば自分が死ぬ可能性が浮上すると共に他の誰かを殺めてしまうことだってありうる。車に乗らずとも、街を歩いていればトラックが突っ込んでくる可能性は少なくともあるわけだ。しかし、だからといって自動車は世界から廃止(はいし)すべきだと僕が主張すれば、多くの人は反対するはずだ。デメリットよりもメリットの方が大きいからである。

 また、包丁は簡単に人を傷づけてしまう凶器であるし、指を切って嫌な思いをさせられることもある。だから根絶すべきだとあなたは思うだろうか?恐らく大半の人は「NO。」と言うだろう。これなくしては料理はかなりの不自由を負うことになるからである。

 このように、日々に潜む数々の魔の手を列挙すれば切がない。そういう世界で我々は様々な恐怖と、時には対策を打ち時には忘れることで折り合いをつけながら生きている。

 だが、僕のような神経過敏(しんけいかびん)な人間はその微細な恐怖を蔑(ないがし)ろにすることが出来ないから辛い。先に「日々に潜む数々の魔の手を列挙すれば切がない。」と書いたが、それに共鳴(きょうめい)して恐怖も次から次へと切りがないのだ。

 恐怖を感じた時、人はどのような行動を取りがちなのか?心理学に『恐怖管理理論』という言葉がある。

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簡単に言えば、『人は恐怖を感じたとき、反射的にそれを和らげる行動を取る』ということだ。それは、時として自己破壊的な行動に繋(つな)がることもある。例えば煙草のパッケージにある喫煙のリスクについての警告表示だ。これを見た喫煙者は身体への害に恐怖を抱き自然と吸う量が減っていくだろうと思われがちだが、あれはむしろ逆の方向に働くことが多い。つまり恐怖を感じた人間はその恐怖を和らげるために、例えそれが長い目で見れば自己破壊に繋がっているとしても、手軽な快楽を求めることが多い。今回の例で言うなら、吸うタバコの本数はむしろ増えてしまうというわけだ。その他にも、太り気味な体型を侮辱(ぶじょく)された人がされなかった人よりもジャンクフードを食べる割合が増加してしまったり、テレビのニュースでテロや災害などの恐ろしい報道を見た後に商品のCMが流れると衝動的に購買意欲が高まる

 だから恐怖管理理論を理解して人間の性質に流されるままにせずに、本質的な解決をしていく必要がある。そのためには恐怖や不安を違う視点で見ることが有効な手段の1つだと僕は思う。

 そもそも恐怖や不安は僕等に行動を促(うなが)。何か心配ごとが頭に浮かべばすぐにスマホを手に取りインターネットで調べる、という経験は近ごろの若者であれば誰でもしたことがあるのではないだろうか。つまり、恐怖や不安は人が行動するための原動力になりうる。

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それを、自動車や包丁のように上手く使ってメリットを最大化すればいいわけだ。

 僕の今回のコンピューターウイルスへの恐怖で言えば、最善の手段は『これまでにも増してセキュリティをある程度は強化する』だ。目を背けて忘れることも1つの手段といえるが、それは根本的な治療ではなく一時的な応急処置に過ぎず、万が一のことが起こったときには時既(ときすで)に遅しとなりかねないしそもそも、神経過敏な性質を持つ僕という人間には到底為(とうていな)せる技ではない。しかし、生活に支障をきたす程の完璧主義も望ましくない。ある程度のことはして、ある程度は妥協(だきょう)して受け入れる。その折り合いが大切だと僕は思う。

 神経質な人間は少なからずの生き辛さを抱えながら生きていかねばならない。しかし、脅威に対して人一倍敏感なのは良いことでもある。先述したように、恐怖や不安は行動するための原動力になる。実際、僕は今「やってやんぞ?」

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というある種のどうにでもなれ効果(少しの失敗だけで自暴自棄になり「どうにでもなれ!」と全てを台無しにする行動を取ってしまう心理効果。ダイエットなどで多く見られる現象。例:「あーあ。駄目だってわかっていたのにチョコレートケーキを1切れ食べちゃった。もうこうなったらワンホール全部食べちゃえ!」ダイエット中でなければたったワンカットのケーキを食べたぐらいで落ち込んだりはしないのに、それがダイエット中だとそのワンカットがあたかもとてつもなく大きな失敗と思えてしまうことが起因。)とも言える前向きに吹っ切れた状態である。

 また、危険から身を守るすべを磨くことは自分はもちろん大切な人達を守る力を磨(みが)くということであり、それは僕が最重要に掲(かか)げる「人々(自分を含む)の居場所を作る守る」という価値観に大いに貢献(こうけん)してくれるだろう。

 光がある限り必ず影は生まれる。僕はその心の光、そして闇をもふつふつと燃やして毎日を生きていく。いつか死ぬその日まで。

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完m(_ _)m

画像出典

※番号は上からの枚数順↓

※かっこの前の単語は、どの画像かをわかりやすくするため

  1. 弱さが強さ(https://pixabay.com/images/id-2912404/
  2. 完璧主義による破綻(https://pixabay.com/images/id-2912404/https://pixabay.com/images/id-1246043/https://pixabay.com/images/id-1072828/https://pixabay.com/images/id-2846160/https://pixabay.com/images/id-2756467/https://pixabay.com/images/id-1238248/https://pixabay.com/images/id-2997406/https://pixabay.com/images/id-1412361/https://pixabay.com/images/id-316532/https://pixabay.com/images/id-3480819/を加工)
  3. ハッピー(https://pixabay.com/images/id-591576/
  4. 内なる脅威に向けて一致団結する内なる味方(https://pixabay.com/images/id-818202/
  5. 恐怖、動物(https://pixabay.com/images/id-50267/https://pixabay.com/images/id-1072696/https://pixabay.com/images/id-694730/https://pixabay.com/images/id-5303221/を加工)

  6.  森の静寂で思い出す(https://pixabay.com/images/id-1276384/https://pixabay.com/images/id-40701/を加工)

  7. 知識、膨大な本( https://pixabay.com/images/id-1655783/

  8.  偉大なるエネルギー(https://pixabay.com/images/id-11582/

  9.  やってやんぞ?(https://pixabay.com/images/id-2578819/https://pixabay.com/images/id-359970/

  10. 我道を生きていく(https://pixabay.com/images/id-4521455/https://pixabay.com/images/id-1149985/https://pixabay.com/images/id-1149891/https://pixabay.com/images/id-486583/https://pixabay.com/images/id-2058243/https://pixabay.com/images/id-1149461/https://pixabay.com/images/id-1030683/https://pixabay.com/images/id-1225488/を加工)

無料で短い【おかしな小説~人生を良くするエビデンスを小説に】ep.2

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 8月29から始動しましたこの「おかしな小説」ですが今回から以下のように変更を加えて執筆していきます。

  1. 単独で「おかしな小説」の記事として投稿。
  2. 投稿日時を毎週水曜日の17時に。
  3. 物語の趣旨を「気持ち悪いユーモア」から→「面白さ(様々な意味で)」,「不気味」,「畏怖(いふ)」,「畏敬(いけい)」,「科学的知識」と変更し、これらを織り交ぜて誰でも楽しめて(少なくとも嫌な気持ちにならないで)、読むだけでメンタルに前向きな変化と共にエビデンス(科学的根拠)に基づいた人生を良くする知識を得られる、というような芸術的面白さを目指します。

今後ともよろしくお願いします。

  

「遥か上空、雲海に広がる夜の静寂」【毎週水曜17時投稿】

※画像はイメージです

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 気づけば僕は真っ暗闇の中で一人、すがるものもなくただふわふわと空間を漂っていた。宇宙飛行士が体験する無重力とはこういうことなのかと頷くこともできるが、重力を全く感じないのかと言えばそうでもない。だとすれば自分はどこにいるのか。そもそも自分という存在すら確かなものではない。思わず両の手を軽く前に突き出してそれに目を向けるが、そこには確かに物体として腕があり指がある。とはいえ全身を確認できないのでは実感はなかなか湧いてこない。

 

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 月明かりに青白く照らされた、足元から広がる絶えることのないもくもくとした雲海が、遥か上空を吹き抜ける涼しげな風に流されてもうもうとうねりを打っている。僕はそれに着地してからそっと腰を下ろした。霧(きり)となったいくつもの水の粒達がふわっと小さく舞い上がり、優しく身体を包んでから薄っすらと消えてた。僕は無性に居心地が良くなって、程なくして全身を預けた。そして上を見上げる。

 その瞬間、息が止まった。ようやくその空気の塊をごくりと飲み込んだとき、無意識に口が動いた。

「うわぁ、綺麗だ。」

 

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分厚い雲が降りた街の明かりは到底(とうてい)ここにまで届くはずがない。有り余るほどの闇を得た星々は各々が嬉々(きき)として輝きを放ち、無数に広がる粒の中で同じ光など1つも無いように思えた。

 首を捻(ひね)り視界を右斜上にずらせば、そこには夜に包まれた世界では最もな勢力を持つ月が煌々(こうこう)と円い光の輪を闇に投げていた。

 

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 僕は状態を起こして今一度目前に広がる世界を見渡した。これを畏敬(いけい)と言わんとせず何とせう。今読んでいる鈴木祐氏の「最高の体調」によれば畏敬の念を抱くことは人に様々な健康的メリットを与えてくれるそうだ。今がまさにそれであり、感服のあまり言葉がでない。

 

 じわじわと眠気が誘ってきたところで僕はふと疑問に思った。睡眠を促(うなが)すホルモンのメラトニンは光に弱いから僕は毎晩遮光(しゃこう)カーテンで街明かりの猛威(もうい)を凌(しの)いでいるのだが、この満月や星屑(ほしくず)の煌(きら)めきはどうなんだろうと。旧石器時代の生活は健康そのものだと本では読んだが、その時代に生きていた彼ら彼女たちやその体内に属するメラトニンにとって、夜のささやかな自然光はどんな存在であったのかは疑問だ。が、案外すぐに正解の有力候補が浮上した。家があるだろうと。そんな当たり前の答えに気づかなかったのかと自然と笑いがこみ上げてきた。

 笑顔になるのは良いことだが、それが一段落した頃に自分が一人きりだということに気がついて、地上にいる家族や仲間が恋しくなった。果たしてここはどこなのか。どうやったら戻れるのか。僕は空の上をぷかぷかと浮かぶこの雲に乗っていつまで夜をさまよい続けるのか。孤独は煙草(たばこ)よりも身体に害だとは読書家になってからは常識になっていたから、家族や友人などの大切な人々は文字通り大切にするようにしていた。だが今となってはどうしようない。強制的に外界から追放されてしまった。人力ではまるで歯が立たない自然のいや、宇宙の驚異(きょうい)に畏敬どころか畏怖(いふ)の念が心を支配した。

 

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 「これ、よかったら食べませんか?」

横を見ると一人の女性が前かがみになって右手を差し出していた。握られている袋には「大容量!クルミ」とプリントされていた。

クルミ...ですか?」

「嫌いですか?」

「いえ、いただきます。」

 「健康にいいですから。」と囁(ささや)きながら彼女は小さな手でいくつかのクルミを僕に手渡した後、肩まで掛かる長い髪を耳にかけて隣に腰を下ろした。例によって白い霧(きり)がふわっと小さく舞い上がる。

 

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左手を揺らして、そこに乗った数個のクルミを転がして遊ぶ。本に書いてあったマインドフルイーティングを実践してみようと思い立ったのだ。今この瞬間の行為に完全に集中する時間を設けることで、現代人の我々にとって様々なメリットがあるのだそうだ。マインドフルなら皿洗いでも洗濯物干しでも筋トレでも何でもいいクルミに鼻を近づけて香りを嗅ぐと微(かす)かではあるが香ばしさを感じた。目を瞑(つむ)りようやく口に入れはするが噛むのはまだ早い。舌の上で転がすとごつごつとした凹凸と仄(ほの)かに苦味が感じられた。そしてついにそれを噛み砕くと口全体に渋(しぶ)みや苦味、それから油分の濃厚さと共に優しい甘みが感じられた。

 しばらくそうしていると隣の彼女が声を発した。

「もしかして...」

 ところが、その瞬間前方百メートル程離れた雲の割れ目からただならぬ重低音が聞こえ、続いてその場所から眩(まばゆ)いほどの白い光が溢(あふ)れ出した。そして間もなく何かが突出した。

 

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「あれは何でしょう。」

 驚きと恐怖で僕の身体にはストレス反応の1種である闘争・逃走反応が迅速(じんそく)に起動された。

「大丈夫ですよ。」彼女は静かに言った。「ただの飛行機です。」

 

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 彼女の言う通りそれは巨大な飛行機で凄まじい速度でこちらに迫ってくる。僕の身体は闘争は放棄(ほうき)し逃走することを選んだ。急ぐままに危うく後ろに逃げそうになったがすぐに切り替えして横に飛び出そうとする。しかし足場は雲であり蹴り出そうにもまるで手応えがない。

「大丈夫ですから。」

その様子を見ていた彼女はくすくすと笑いながら確かな口調で言った。

 「大丈夫なものか!」と怒りさえ覚えたが、一瞬の迷いの末に僕はその言葉を信じてみることにした。彼女の隣にまた腰を下ろそうと身を屈める。

 その瞬間、目と鼻の先まで接近した旅客機のフロントガラス越しに帽子をかぶった二人が微笑みながら会釈(えしゃく)したのが見えた。続いて客席の窓がすぐ横に迫り、その向こうには数人の子供が笑い合いまた別の窓からは1人の紳士がうつらうつらしているのが目に止まった。それらの光景は一瞬の出来事であったはずだが、視覚はそれを鮮明に捉(とら)えていた。そして凄まじい轟音(ごうおん)と共に大きな翼(つばさ)が視界の全てを遮(さえぎ)り、最後に機体の尾びれが風を切って行った。

 夜の静寂(せいじゃく)が元の姿を取り戻す。

 巨大な人工物が僕に与えた畏怖(いふ)に困惑しながら僕はつぶやいた。「すごかったですねぇ...。」

 笑いながら彼女が答える。「ですねぇ。」

 一息つこうかと身体の力を抜いたところで、周りの景色が少しずつ明るくなっていることに気がついた。活発だった星々はその数を減らし、堂々たる月はその輝きをすでに薄めていた。

 

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「夜が明けますね。」

 

 

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 隣を見るとそこには誰もいなかった。隅々(すみずみ)まで見渡してみたがそこには真っ白な雲の大海原がどこまでも続いているだけだ。

 

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 遥(はる)か遠くの空が白み始めやがて、まだ生まれたばかりの太陽が姿を表した。それは雲海を黄金に照らし出し、やがてまるで溶かすようにぽつぽつといたる所の雲を沈(しず)めていった。日差しの猛威(もうい)は止むことを知らず、ついに残るは僕が乗るたった一群の雲だけになった。そして程なくして、それすらも日の暖かみに溶かされたのだった。

 

 まぶたをも突き抜ける眩い光が視界を埋め尽くしている。万が一間違って目を焼かれないように恐る恐る目を開ける。つい今まで見ていた不思議な幻想に思いを馳(は)せながら、「ふぅ。」と息を吐く。外からは鳥の鳴き声が僅(わず)かに聞こえる。

 

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 寝床から起き上がりカーテンを明けてから、僕を現実に帰せた光目覚まし時計の電源を切る。

 

intiinti.com

(↑公式サイトなのでどのサイトよりも安いそうです)

 

 そしていつものようにペットボトルの水を口に含んだところで、はっと気がついた。

「あれは、小松さんだったなぁ。」

 

 先週の木曜日、緑豊かで小川の流れる公園で生野菜だらけの昼食をとっていると、隣の隣のベンチで同期の小松さんも同じように箸(はし)を動かしているのが見えた。ちょうど同じようにして小松さんもこちらを向いたので僕は会釈(えしゃく)をした。すると彼女は、何かの袋を掲(かか)げて僕に合図を送ったが僕には意味がわからなかった。それを察(さっ)したのだろう。自分の荷物を抱えてこちらに小走りで来た彼女は前かがみで言った。

「これ、よかったら食べませんか?」

 

 ペットボトルのキャップを締(し)めながら、初めて自分の中に眠る恋心と向き合う。

 とはいえ、あれは所詮(しょせん)夢だ。夢の中で人を殺したからと言って、それを現実でもやってしまうかと言えばそうではないし、はたまたそうすることを自分が望んでいるのかと問えば答えはNOのはずだ。夢幻とは奇々怪々(ききかいかい)なものである。

 だからといってこの感情を蔑(ないがし)ろにするのは得策ではない。それを見つめ観察し、向き合い、受け入れた上で『さて、どうするか?』と考えるのが喜ばしい道筋だ

 「それにしても、絶景だったなぁ。」自然と笑みが溢れる。「いつか早朝の便に乗って北海道あたりに自然を堪能(たんのう)しに行ってもいいな。」

 

 

intiinti.com

(↑公式サイトなのでどのサイトよりも安いそうです)

 

 

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  1. 雲の間の月(https://pixabay.com/images/id-461907/
  2. 闇(Gerd AltmannによるPixabayからの画像を加工)
  3. 雲海(Johnson MartinによるPixabayからの画像を加工)
  4. 星空(Gerd AltmannによるPixabayからの画像)
  5. 月(Okan CaliskanによるPixabayからの画像)
  6. 一人(Gerd AltmannによるPixabayからの画像)
  7. 二人(Gerd AltmannによるPixabayからの画像を加工)
  8. クルミ_Alicja_によるPixabayからの画像を加工)
  9. 雲の割れ目から眩いほどの白い光(Dimitris VetsikasによるPixabayからの画像)
  10. 飛行機(Анастасия БелоусоваによるPixabayからの画像を加工)
  11. 薄い月(pen_ashによるPixabayからの画像を加工)
  12. 誰もいない(Free-PhotosによるPixabayからの画像を加工)
  13. 黄金の雲(Free-PhotosによるPixabayからの画像を加工)
  14. 現実に戻った僕(StockSnapによるPixabayからの画像を加工)